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先日、某テレビ番組で「脱ステロイドで皮膚病を治した」という内容の番組が放映されていました。内容は大まかには下記のような内容でした。
若い女性(20代だと思います)で手の湿疹を繰り返している。(お仕事は確か美容師さんだったでしょうか。。。)
湿疹に対して病院で処方されたステロイドを塗るとすぐ症状が治まる。湿疹が出るたびにステロイドを塗って症状を抑えていた。
ある時期から湿疹が顔にも出るようになった。顔もステロイドを塗ると症状は治まった。
最初のうちは薬を塗れば症状は治まっていたが、徐々に薬を塗っても症状が治まらなくなっていった。それに対して病院で強いステロイドを処方された。最初のうちはそれを塗れば症状は治まっていたが、その薬も徐々に効かなくなっていった。
ある日、ネットで脱ステロイド療法のサイトを見た。それを参考にステロイドを中止した。中止後、それによるリバウンドで症状が増悪したが頑張って我慢した。その後、徐々に症状は軽快し、1年経過した頃(だったと思います)にはきれいに治った。
大まかには上記のような内容だったと思います。この放送を見たら「ステロイドは恐ろしい」「ステロイドは不要」という印象を抱きかねません。放送内容について気になった点を以下に述べますと
手の湿疹と顔の湿疹の関連性は不明です。id反応といって、体の一部に発症した湿疹が慢性化すると全身に拡大することがありますが、当該女性が実際にどうだったかは放送内容からだけでは判然としません。手の湿疹と顔の湿疹は全く無関係の可能性も十分にあります。ステロイドが原因で拡大したかのような印象を持ちかねませんが、ステロイド外用と皮疹の拡大は関係ありません。
顔の湿疹が酷くなったのは「ステロイド酒さ」の可能性を疑います。ステロイド酒さはステロイド外用薬を「不適切に長期間使用」することで発症する疾患です。赤み、ニキビのようなぶつぶつ、毛細血管拡張(毛細血管が拡がった結果生じる細くて赤い糸のような皮疹)が出現します。これの治療は「ステロイドの中止」です。ただし、ステロイドを中止すると必ずリバウンドがあり一時的に増悪します。これは必発で避けられません。なので、一気にやめるのではなく、徐々にステロイドの強度を下げつつ代替薬を使用しながら軟着陸を目指します(一気にやめる場合もありますが、その場合でも代替薬は使用します)。治癒するまでの期間は個人差(もともとの皮膚の性質、使用したステロイドの種類、量、使用した期間)があるので一概には言えませんが、早くても月単位の日数はかかります。
ステロイド酒さは良く見る疾患です。当該番組のタイトルに「びっくり」もしくは「仰天」に類似した文言が使用されていましたが、特にびっくりでも仰天でもありません。原因は、とても残念なことなのですが、病院でステロイド軟膏を漫然と処方されて「不適切に使用し続けた結果」発症するケースがほとんどです(皮膚科以外でそのようにしているケースが多いです。たまに皮膚科でやってしまっているケースも見ますが)。番組で紹介された女性もこのケースではなかろうか、と思います。
このような問題が起きるのは、要するに「使い方を間違えるから」です。例えば、火は非常に便利(というか生活に不可欠)ですが、使い方を間違えると火事を起こします。自動車は現代社会では不可欠ですが、使い方を間違えると事故を起こします。包丁は料理に不可欠ですが、使い方を間違えれば人を傷つけてしまいます。ステロイドの問題も論理的には全く同じです。
自動車や火や包丁はさておき、「薬を適切に使う」という場合、その主体は誰でしょうか。直接的に使うのは患者さんですが、患者さんは医師から教わった通りに薬を使うわけですから、「薬を使うのは医師」と言えます。このように考えると、ステロイドの誤ったイメージが拡散するに至った元々の原因の一端は「医師によるステロイドの不適切使用にある」と言えます。
上記の番組を見た時、ステロイド忌避を招きかねない内容に不快感を覚えましたが、このような内容の番組が制作されるに至った背景・ものごとの繋がりを考えたら、我々医師にも責任があると気づき、反省した次第です。