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母乳と人工乳


医学部の小児科の授業では小児の栄養について真っ先に学びます。

講義では母乳と人工乳(粉ミルク)の違いを学び、大学の定期試験、卒業試験はもちろん、医師国家試験にも出題されます。そして、小児科を選んだ医者は常に母乳、人工乳に関わることになります。

母乳と人工乳のどちらが良いのか、結論的にはいくつかの点に注意すれば「どちらもでも大丈夫」です。

その注意点は母乳の方が児の感染予防に良いという点です。初乳と言われる出産後から10日目くらいの母乳には免疫グロブリンIgAが多く含まれ、赤ちゃんを感染から守ってくれます。出産少なくともこの期間は母乳を飲んだ方が良いのです。

母乳は素晴らしい栄養ですが、欠点があります。ビタミンKが少ないのです。ビタミンKは血液の凝固機能の働きに重要で、これが不足すると頭蓋内出血の原因になります。分娩施設では「3回法」という出生後、産院退院時、1か月健診時の3回、「ケーツーシロップ」というビタミンK剤を赤ちゃんに飲ませます。また「3か月法」という生後3か月まで合計13回まで毎週飲ませる施設もあり、学会では3か月法の方が頭蓋内出血の頻度がさらに減ることが確認されたことにより、今後、この「3か月法」が広がっていくと思われます。

鉄分の含有量は人工乳の方が母乳より多く含まれます。鉄分が不足すると鉄分の腸管からの吸収は母乳の方が良いのですが、ある研究では生後4―5カ月では「母乳だけのグループ」と「人工乳のだけのグループ」に貧血の頻度に差はないのに、9-10か月では「母乳だけのグループ」に貧血の児が多かったとのことです。この貧血を予防するには生後9か月ころから鉄分を多く含んだフォローアップミルクを利用したり、生後9か月頃からの離乳食後期に鉄分の多い食物(レバー、鶏肉、赤身魚)を多めに摂取するなどの工夫が必要です。

将来のアレルギー発症も気になりますが、研究では母乳のほうが喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の発症は少ないとされています。ただ、アレルギーは遺伝、環境などほかの要因も関与するので、アレルギーを恐れるあまりに母乳にこだわり過ぎる必要はないと思います。

母乳 人工乳
免疫 初乳(出産後から約10日)に免疫グロブリン(IgA)が多く含まれていて児の感染防止に有効 免疫グロブリンは含まれていない
ビタミンK(不足すると頭蓋内出血の危険) 少ない 母乳よりも多く含まれる
鉄分 少ない

(吸収は人工乳より良い)

母乳より多い
将来のアレルギー発症(喘息、アトピー性皮膚炎など) 起こしにくい 母乳より頻度が高い
費用 無料 有料
手間 いつでも授乳可能 調乳が必要(最近は液体ミルクあり)

 

このような母乳と人工乳の違いを理解したうえで、母乳の出が悪かったり、現在はお母さんも仕事でお子さんを生後数か月から保育園に預けるなどさまざま事情があり、全て人工乳に頼る場合や、両者併用の混合栄養ももちろん「有り」です。

ただ、乳児検健診で栄養方法を確認しますが、以前と比べると、年々、完全母乳栄養の比率が多くなっている印象があります。表の厚労省の調査でも特に2005年度からの10年間で生後3か月時、10か月時とも「母乳のみ」が増え、人工乳、混合が減っています。これはWHOや各国が母乳を推進した影響もあるかもしれません。しかし、前述の母乳と人工乳の違いを把握しつつ家庭の状況に合わせた栄養法で構わないと思います。もちろん、人工乳だけであっても良いのです。

 

   生後1か月時 生後3か月時
母乳のみ 混合 人工のみ 母乳のみ 混合 人工のみ
昭和60年(1985)度 49.5% 41.4% 9.1% 39.6% 32.0% 28.5%
平成7年(1995)度 46.2 45.9 7.9 38.1 34.8 27.1
平成17年(2005)度 42.4 52.5 5.1 38.0 41.0 21.0
平成27年(2015)度 51.3 45.2 3.6 54.7 35.1 10.2
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